
Research
研究について
作曲や描画、デザイン、執筆などの創造行為は、社会生活における、脳機能障害や精神疾患に伴う"生きづらさ"を解消する手引きになる可能性があることが複数の事例を通じて示唆されてきました。
また、反対に特定の脳機能が創造性に与える影響についても研究が進んでいます。
ここでは、生まれつきの脳の障害や精神的不調を抱える青年期のクライアントと共同制作した作品と、その創造過程などの一部を紹介します。
※クライアントの承諾が取れた案件のみ記載しております。
"生きるための芸術"に関するオリジナル楽曲
Alien08-26
2025年の「世界自閉症啓発デー」に合わせて楽曲を公開しました。
Message
今日は「世界自閉症啓発デー」です。みなさんは、自閉症にどんなイメージを持っていますか?
この曲は、周りの人と世界の感じ方が違うと感じたり、伝えたいことをうまく伝えられなかったりして、「自分は別の星から来たのかもしれない」と思う瞬間をテーマに作りました。
自閉症の人は、光や音などの感覚が普通の人とは違ったり、言葉以外の意味を読み取るのが難しいことがあります。そのため、同じ場所にいても、見えている世界が違うように感じることがあるかもしれません。
自閉症はスペクトラム上に広がるもので、誰もが自閉症的な部分を持っています。それがどのように現れるかには個人差があり、その違いが時に孤独感を生むこともありますが、違うからこそ見える美しい世界もあると私は思います。
この曲が、聴く人それぞれにとって、何かを感じ取るきっかけになれば嬉しいです。
わたし的生存論(Live from "わたし的生存論")
配信ライブ"わたし的生存論"より、タイトル楽曲『わたし的生存論』の歌詞付き動画を公開しました。
クリエイターのimuipapiko様に編集していただき、制作にあたって楽曲についてインタビューをしていただきました。
Case 1: 冬青
Story
冬青は、母と兄への恐怖心によって自宅で充分に休息が取れないことから受診した精神科にて強迫性障害と診断され、治療のため入院した精神医療センターで、言語化できない不安や孤独感を言語化するために詩を執筆した。
書いた詩は闘病生活において冬青自身への応援歌となった。退院後にはmelody♡can!dyによって詩が楽曲化されパフォーマンスされたことで、冬青にとって当時の心境を客観的に見直す契機となった。
その後、冬青は3年の間に複数回入院治療を行い、感情整理のために20を超える詩を制作した。その中には病院で知り合った患者とともに制作した楽曲も含まれる。
病床にいるとき以外は感情に向き合うことで気分が沈んでいくことが怖く、詩を作ることが難しいという。
現在は比較的体調が安定していて、安定した状態だと詩を作る必要性を感じないそうだ。
雨音16ビート
2021
冬青が初めて書いた詩に対しメロディーをつけ、編曲した作品。
発熱中に雨を見て思い浮かんだ「雨音16ビート」というフレーズを元に、入院している間 自分を奮い立たせるために発想を形にしようとして書かれた詩。
その幼さや純粋さをそのまま残すために、メロディーやビートはシンプルにし、ピアノやマリンバ、シンバルなどで様々な雨音の対比を描いた。
『雨音16ビート』の共創を通じて、初めて書いた詩に曲をつける権利を私に一番にくれたこと、言葉では計り知れない心情に対して奥底の部分で共感できたこと、そしてそれをパフォーマンスという形にすることでたくさんの人に聞いてもらえる機会を得たことが私に達成感や充足感を与え、私の自己肯定感も上がるという経験をした。
青夏(やなぐ)
2023
二度目の入院治療中にまとめて送られてきた詩にインスピレーションを受けて
melody♡can!dyが作詞作編曲した曲。
冬青の詩はいつも、「そんな時期もあったなあ」と踠いた時間を思い起こさせ
る力を持っている。それを乗り越えた今もまた別の問題を抱えているけれど、
今渦中にいる悩みはきっといつか失くなるよ、その成長を見守らせてくれてあ
りがとうと伝えたくて、手紙ではなく音楽で返答した。
5G Gene
2023
珍しく通院中に書かれた詩に英語ラップを加えて、作編曲した曲。
冬青のキャラクターをそのまま反映したかのような柔らかく温かい詩が多い
のに対し、この詩は勢いがあり、送られてきた時の印象も力強かった。
melody♡can!dyが歌ったら面白いのではと思い曲をつけた。
燦
2023
入院生活において彼女を支えてくれた太陽に向けて書かれた詩。
体調も気分も優れず休んでいる彼女を外に連れ出してくれたのは暖かな陽の光だった。
ポップス向きのリズムというよりは、どちらかというと自由に心の内を記した印象のある詩だったので、緩やかなピアノ伴奏に溶け合うようなメロディアスなボーカルラインを付けた。
Case 2: UU
Story
UUは、留学生として日本の美術系大学でキャラクターデザインを専攻しており、新たに創作したイラストや曲を共有したり、創作活動の悩み事などを相談し合ったりしていた。
2022年に『Afterglow』のジャケットデザインをUUに依頼し、納品してもらったお礼にUUが過去に手掛けたイラストからインスピレーションを受けて『スーサイド・ケーキ』を提供、その後 同イラストをコンセプトビジュアルとした配信ライブ”人工アトランティス”を行った。
2023年にはmelody♡can!dyの『悪口くらい言わせて』のインストゥルメンタルトラックを元にUUがアニメーションを制作、2024年には『好きでもない先輩と、スタバに行くことになった。』のリリックビデオのためのイラストを依頼した。
UUは、イラストが楽曲になることで、イラスト制作時には言語化できなかった曖昧な世界の解像度が上がる感覚があり、言葉で感想をもらう以上にそれ以降の制作の糧になることがメリットだと述べている。
スーサイド・ケーキ
2022
中心に描かれた女の子がガラスを挟んで異なる時間軸にいる。過去の像は包丁を手にし美しい髪を切ろうとしている。現在の像は髪が片方だけ短くなっており、パーティーテーブルに並べられた食事を前に呆然とスマートフォンを眺めており、その横には苦しそうな顔をしたぬいぐるみが横たわっている。
この楽曲では、女の子が座っている椅子を”人工アトランティス(=アルコール・薬物などによる多幸感)"に向かう虚構列車の座席と見立て、オーバードーズによる自傷行為を繰り返す様子を歌にした。
現代社会は「悲しい」「苦しい」といったSOSサインすら「病んでいる」ことのアピールとしてのステータスやファッション性としてしか捉えられないということを問題視して書いた作品。主人公の女の子も注目を惹く目的で自傷行為を繰り返している。
Underground Planet
2024
窓のない飛行機の中で、外の様子をモニタリングしたり飛行機のエラーメッセージを確認したりすることに忙しい男女は、彼ら/彼女らの生きてきた世界が全て地下に存在しており、飛行機も空を飛んでおらず目的地に向かってすらいないことを知らない。
目に見えているもの、信じているもの、常識、未来、どれも真実とは限らない。
イラストから以上のストーリーを連想し、半音階の軽快なピアノが懐かしさや切なさを掻き立て、惑星の周遊性をモチーフにしたシンセサウンドが特徴的なノンジャンルポップスに仕上げた。
Case 3: アリス
Story
中学校でのいじめによる教師不信から うつ病と診断され、定期的な通学が困難だったアリスは療養を兼ねてカナダへの長期留学を決めた。しかし、ホームステイ先で嫌がらせを受け続けたことによって自傷行為の頻度や程度が悪化し、途中帰国した。
アリスは留学中や帰国後しばらくの間、実体験に基づくエッセイや短編小説、詩を書いて言語
コミュニケーションの代替としていた。